母を、嫌いになれなかったあなたへ
鑑定の仕事をしていると、時々、
こちらが教わる側に回る瞬間がある。今日書くのは、
そんなケースのひとつだ。
相談に来られたのは、50代以降の大人世代の女性――
ここではKさんとしておく。若い頃に海外へ留学し、
その地で今のご主人と出会って結婚。息子さんを二人育て上げ、
今はもう二人とも独立している。ごく普通の、
順風満帆な人生に見えた。
けれど話を聞いていくと、そう単純ではなかった。
一人娘だったKさんは、お父様を亡くされたあと、
一人になったお母様と暮らし始めた。最初のうちは、
お母様もまだ元気で、孫の世話を手伝ってくれるくらいだった。
それが少しずつ、支える側から支えられる側へと変わっていく。
ご主人は長らく単身赴任。月に一度帰ってくる生活。そんな中、
ご主人が仕事の上で大きな転機を迎えられ、
そこから大人三人の暮らしが本格的に始まった。
「三人での生活が、本格的に始まったのはそこからです」
Kさんは、そう静かに話してくれた。長年営んでいた雑貨店も、
母の世話に手が取られるようになり、コロナ禍を経て閉じた。
趣味の絵画教室や、
気の合うお友達とたわいのない会話をする時間が、
今のKさんにとって、
ほっと息をつける貴重なひとときになっている。
お母様には軽度の認知症があり、時に「もう出て行ってほしい」
というようなことまで口にする。その言葉が、
認知症の症状のひとつだと頭ではわかっていても、
心が追いつかない。
星が映していたもの
Kさんの星を見て、まず目に入ったのは、太陽が乙女座、
月が魚座という組み合わせだった。乙女座の太陽は、
物事を丁寧にこなし、誰かのために黙々と力を尽くせる誠実さ。
魚座の月は、人の痛みに深く共感し、
境界を越えてでも寄り添おうとする感受性。この二つが、
ちょうど真反対の位置で向き合っていた。
「きちんとやり遂げたい自分」と、「本当は誰かに委ねて楽になりたい自分」。その綱引きを、
Kさんはずっと一人で続けてこられたのだと思う。
お母様の星もまた、太陽は蟹座、月は魚座。蟹座の太陽は、
家族のためなら惜しみなく力を尽くす、深い愛情の星だ。実際、
お母様は昔から、そういう人だったのだろう。ただ、
月が魚座であるということは、支えを失ったときに、
その優しさの輪郭が一気に崩れやすいということでもある。
お父様という「家族の核」を失ったことで、お母様の中の何かが、
静かに、けれど確かに揺らいでしまったのかもしれない。
そして母娘二人が、同じ「魚座の月」を持っているということ。
本来なら深く通じ合えるはずの共通点が、
境界を溶かし合う原因にもなっていた。
お父様というワンクッションを失った今、二人の水は、
間に何も挟まないまま触れ合ってしまう。Kさんが感じている、
あの言葉にならない重さの正体は、ここにあるように思えた。
さらに二人の星を重ねてみると、もうひとつ、
見過ごせない特徴があった。Kさんには「火」
の性質を持つ星がほとんどない。つまり、感情をぶつけたり、
正面から言い返したりすることが、
そもそも得意な人ではないのだ。対してお母様は、
火の星をいくつも持つ、感情を率直に表に出すタイプ。
母の強い言葉が、
いつも真正面からKさんの心に深く響いてしまうのは、
そもそも二人の「戦い方」が違うからだった。
決して、Kさんが弱いわけではない。
戦わないという戦い方も現実には
重要なことだと思う。
「まぁ、いっか」に変わった瞬間
鑑定を終えたあと、Kさんからいただいた感想が、
今も印象に残っている。
「自分の星回りを知って、"だからそうなんだ"
と腑に落ちたことで、出来事の理由に納得できて、
"まぁ、いっか"と思える選択肢が増えました」
占いの仕事をしていて、これほど嬉しい言葉はない。星の配置は、
何かを解決してくれるわけではない。ただ、「
なぜこんなに苦しいのか」という問いに、
輪郭を与えることはできる。輪郭が見えると、人は不思議と、
少しだけ自分を許せるようになる。
Kさんはさらに、こんなことも話してくれた。
「母だけが変わったんじゃなくて、
時間とともに家族みんなが変わって、
これからも変わり続けていくんだと気づきました。
一人ひとりの変化を受け入れながら、
それでも家族としてつながっていく――
そういう形もあるんですね」
母親の変化だけを見ていた視点が、
家族というひとつの流れ全体を見る視点に変わった瞬間だった。
これは、私が鑑定書に書いたどの一文よりも、
Kさんご自身がたどり着いた答えだったと思う。
もう一人の「ママ」の話
後日談として、Kさんが教えてくれたことがある。
お母様との適切な距離を保つために、彼女は自分の中に、
もう一人の"キャラクター"を作ったのだそうだ。
テレビで見かけた、あるゲイバーのママの、
歯切れのいい喋り方が面白くて、気に入っていたらしい。
落ち込んだときには、そのママを心の中に呼び出して、
活を入れてもらったり、時には慰めてもらったりする。
これを聞いたとき、思わず唸ってしまった。
とても理にかなったやり方だと思ったからだ。
母という存在に対しては、
どうしても娘としての役割や罪悪感がまとわりつく。
距離を取ろうとするだけで、心のどこかが痛む。けれど、
赤の他人の、しかもテレビの中の陽気なママの声を借りれば、
その言葉には娘としてのしがらみがない。「あんた、
よく頑張ってるじゃない」と、誰にも遠慮せずに言ってもらえる。
自分の内側に、利害関係のない第三の目を持つ――これは、
Kさんの乙女座の太陽が持つ、状況を整理し、
自分を立て直す力そのものだったのだと思う。
星は、性格や資質の傾向を映し出すことはできても、そこから先、
どう生きていくかを決めるのは、いつだって本人の力だ。
Kさんは、鑑定を受けたあとも、自分なりのやり方で、
母との間合いを今も探し続けている。
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占いが全てを解決してくれるわけではない話
私は、占いが全てを解決してくれるとは思っていない。
占星術という星の言葉は、あくまで一つの術であり、
最後にどの道を選ぶかは、いつも本人に委ねられている。
テニスで言うなら、壁打ちの壁のようなものでいいと思っている。
こちらが返した言葉に、自分なりの答えを打ち返し、
また自分の足で歩いていく。
そんなふうに星を利用してくださる方と、
これからも出会っていきたい。Kさんは、
まさにそういう方だった。
母を、嫌いになれなかった人。そのまま一人で抱え込んで、
心をすり減らしてしまう人も少なくない中で、
Kさんは自分を守る術を、ちゃんと見つけていた。
これからも何かあってもご自身の作品に想いを反映させたりしなが
ら進んでいかれるのではないかと思っている。
もしこれを読んでいるあなたにも、
似たような重さを抱えている家族がいるなら。その苦しさには、
きっと理由がある。そして、その理由がわかるだけで、
選べる道は、思っているよりずっと多い。
占星術でそのお手伝いができれば嬉しいなと私はおもう。
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